患者中心の歯科医療をめざして


患者中心の医療とは
最近、新聞や雑誌で「患者中心の医療」という言葉をよく見かけるようになりました。
英語では、「Patient-centred Health Care(PCHC)」とも言い、医療消費者である
患者の主体的な意思が中心におかれる医療のことを言います。

これは、「単に病気を治療するだけではなく、患者の幸福と満足を追求することが
医療の本質である」ととらえ、「患者の立場に立って医療を実践すること。また、それを
支援・促進する体制のこと。」と言われています。

良い例えかどうかわかりませんが、子供がいらっしゃる方は、両親を医療者に、
子供を患者さんに例えてもらえばわかりやすいかもしれません。
子ども(患者)は大人(医療者)の言うことを素直に聞いていればいいのだという思想
に基づいた従来の「医師中心の医療」で子育てをすれば、小さいうちは良いかもしれ
ませんが、いつまでもそのままだと、子供の自立心が育ちません。
そこで、子供(患者)も学問や情報(医療情報)を身に付け、自分で取捨選択(治療方法
時には医師・医療機関)をし、積極的に自分の人生(治療)に関与していく。
それを、親(医療者)や周りの大人たち(政府、地方自治体、各種団体)が協力して、
全面的に支援していく。というのが、患者中心の発想です。

なぜ、今まで患者中心ではなかったのか
以前からこういった考えで医療を施してきた医療者もたくさんいらっしゃるとは思いますが、
言葉として確立してきたのは、ここ最近の話です。
よって、医療関係者の中にはなかなか馴染まない方もいらっしゃると思います。
患者さんから見れば、「簡単そうに見えるのになぜ?医療者は怠慢だ!」と思われる
かもしれませんので、引き続き親子の例えを続けます。

ある家では、両親と子供が、「将来子供が自立して、父親が70歳になったら一緒に
暮らそう」というビジョンを持っていたとします。大学までは順調に進学しましたが、
いざ就職というところになって、「僕は働きたくない、もうしばらく自由にさせてくれ」
と言い出しました。ここで、医者(大人)中心で考えれば、なんとか尻を叩いて、
とにかく就職しなさい、ということになるでしょう。
患者(子ども)中心に考えれば、仕方が無い、何かあったらフォローしようということ
になるでしょう。

その結果リフレッシュした子供が大成功を収め、両親共々幸せに暮らしました、
めでたしめでたし、という結果になれば、子供の幸せと満足を満たし、さらに両親も幸せです。
ところが、うまくいけば良いですが、一度許したばっかりにそのまま何十年も働こうとしない、
という子どもさんも中には、いるでしょう。

これが医療者が思っている患者中心が馴染まない理由の一つです。
歯医者で銀歯を作ったが、医者の思うように患者さんはお手入れをしてくれず、
半年後に抜歯になってしまった、こんなことなら、患者中心なんてやるんじゃなかった、
となるわけです。病気が良くなるかどうか、医療者も不安な重篤な症状のときは
できればすべて管理し、医者中心に医療を行わなければならないこともありますよね。
感染症や急性症状の多い時代は、患者中心の医療だと疾病対策が追いつかなかったに
違いありません。


患者中心の医療のために
こういうことが起こらないように、また起こったとしても修正可能なように、
あらゆる研究がなされています。最近の言葉から拾ってみますと、
・ 患者の自己決定権
・ インフォームドコンセントの徹底
・ セカンドオピニオンの体制づくり
・ 診療情報(カルテ情報)の患者本人への開示
・ 各種医療情報(疾患、治療法、医薬品、副作用等)の提供
・ 患者と医師間のコミュニケーションの向上
・ エビデンス(科学的根拠)に基づいた医療
・ 患者アドボケート体制
等がこれに当たります。

中には、難解な言葉も含まれているかと思いますが、つまりは、患者中心の医療を
実現するために、充分な情報提供を行い、患者さんが自ら良い医療を選択できるよう
にして、もしも道を間違ったり、道が逸れてきたりしたら、医療者はしっかりフォロー
していきましょう、ということです。
また自己決定権がある以上、患者さんも頑張らねばならないということも含まれるでしょう。
わがまま言いたい放題で良くなったという事ではなく、良い医療をつくるには、お互いの協力
が必要です、ということですね。

先ほどのたとえでは、親と子が共通の目標を持っていて、コミュニケーションがしっかりして
いれば、計画は実現しやすいし、もし当初の計画どおりにいかなかったとしても修正が
可能だと思います。

同様に、医療者と患者さんが共通の目標を持っていれば、そんなにはずれることは
ないでしょう。そしてその共通の目標に当たるのが、今までは「医者が満足できる治療
やその結果」であったのが「患者の幸福と満足」になったわけです。
微妙な違いですが、わかりますでしょうか?

人間の幸福というのも人それぞれ違います。私がその人の幸福はこうだと思って治療しても、
その方が「そんなの幸せとは思わない」と言われてしまえば、満足はありえません。
幸福と言葉で書くと簡単ですが、医療の現場では難しい目標なのかもしれません。

そんなことを考えながら、上の言葉をずっと眺めてみると、医療者の方がやることが
多いように感じます。これまで保険制度も含めて、医者中心でシステムを作ってきて、
それで社会は回ってきたわけだから、その180度の展開は大変なのでしょうね。

これからはこの「患者中心の歯科医療」を当院でも実践していこうと努力していきたい
と思います。
まだまだ力の及ばない点も多々ございますが、今後ともよろしくお願いします。

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