顎関節症の治療について実際の経過を元に紹介します。
第40回顎咬合学会で発表したものになります。
お口の写真です。患者さんは銀歯を白くしたいということで来院されましたが、右側に開口時クリック音がありました。
細かく見ていけば第二小臼歯が4本欠損していますが、矯正や抜歯の既往はないそうです。左上4の捻転、上顎犬歯の挺出、捻転があります。臼歯部の被せ物はファセットなのか当初からのものなのか、きゅうくつな咬合であるように見えます。
レントゲン写真です。右の下顎頭が左より小さく、その分か下顎枝が右の方がやや短くなっています。このレントゲンでは明確ではありません。
顎関節症の診断にはMRIが必要です。当院からは飯塚病院に撮影を依頼しています。
MRIにて関節円板のずれがわかります。本症例では右側の関節円板が閉口時に前方に転位している復位性関節円板転位であることがわかります。
日本顎関節学会の診断樹からもほぼ確定診断と言えます。MRIがなければ確定診断とは言えません。
ここで、ずれた関節円板が戻る(復位)かどうか、ですが、下顎頭の変形など退行性病変が著しい、円板が損傷しているなど、難しくする要素をチェックしていきます。今回は変形がややありますが、転位量も大きくない部分転位で、復位させた顎位が大きく変わらないと思われ、患者さんの協力度も良好であったため、まずは復位を狙ってみました。
治療にはいくつかの方法があり、まず、顎関節症が態癖(頬杖をつく、横向き寝うつぶせ寝など)からくるものであれば、それを止めないと治りませんので、よく問診した上で態癖指導を行います。
次にスプリント治療になります。
当院では上のようなリポジショナルスプリントを用います。できるだけ長時間の使用をお願いし、1,2ヶ月継続してもらいます。
症状の改善が見られれば、その位置で補綴治療に入ります。今回は約1ヶ月でクリック音が消えました。
最終補綴に入る前に経過の安定を確認するためにプロビジョナルレストレーションを数ヶ月入れることも大切です。
本症例では6ヶ月間の経過観察の上、最終補綴を行いました。
初診時より、やや咬合高径が上がり、下顎が前方に位置するようになりました。
今回は顎関節症の症状はスプリントにより疼痛、クリック音は寛解し、安定した状態で補綴まで行うことができました。しかし変形性顎関節症があり、関節頭のリモデリングによる咬合が変化していく可能性もあるため、今後も定期的にMRIで経過観察を行う予定です。
補綴後も安定した開閉口運動を示し、顎位は安定していますが、今回矯正は行っておらず、下顎位をより安定させるためには、犬歯部のガイドを付けたスプリントを使って咬合を保持しています。
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